================================== これは、 http://linux-foundation.org/weblogs/openvoices/2008/02/03/linus-torvalds-interview-part-ii/ のインタビュー音声の和訳です。 翻訳団体: JF プロジェクト << http://www.linux.or.jp/JF/ >> 翻訳日: 2009/02/03 翻訳者: Shimauchi Sho << sho dot shimauchi at gmail dot com >> 校正者: 小林雅典 << zap03216 at nifty dot ne dot jp >> Kaneko Seiji << skaneko at a2 dot mbn dot or dot jp >> 石田雄一 << fclinux at progresser dot net >> (敬称略) ================================== Linus Torvalds - Part II February 2008 Jim Zemlin: 少し特許について話しましょう。Linux がどのように特定組織の 特許を侵害しているかという申し立ては確かにあります。最近では Novell や Red Hat の特許関連の訴訟まで起こされました。 これらの個別の問題か、あるいは一般的な特許についてのあなたの展望を 少しお聞かせ下さい。 Linus Torvalds: 特許はバカげてるね。一般なアイデアに基づく特許は 大きな間違いだという事実以上に多くを語りにくいし、ビジネスモデル特許と ソフトウェア特許を取得することができるという概念全体が最初から ぶっ壊れてるね。 少なくとも EU ではソフトウェア特許の概念全体に対し争うことができる。 アメリカではソフトウェア特許が大きな間違いだと理解している人が オープンソースに関わる人以外でも確実に多く存在しているよ。 Jim Zemlin: 特許を肯定する根拠は、特許がより多くのイノベーションを 創出する機会を与えるために独占権という形で発明者や革新者に報奨を 与えているということです。 Linus Torvalds: それは実際は二次的な根拠だよ。特許の第一の根拠は、 人類の知識と技術を向上するための方法ってことを意図して作られているんで しょ? だからそのために特許を書くことで何かを創り出している人を奨励 するんだ。 問題は、このことについてとても強い意見を持っている経済学者もいるけど、 特許が実際にはこのように機能していないことなんだ。特にソフトウェアでは、 特許は誰にも報奨を与えてないし、実際には発明の助けになっていない。 むしろ逆だ。 だから最初の特許が存在するそもそもの理由を実際に満たさないなら、ソフト ウェア上の特許は許されるべきじゃない。この問題は特許によって人々を豊かに するという話じゃない。人々が豊かになったことは全くなかったんだ。これは 知識を公共のものとして使用可能にすることについての議論だし、特許の 提供する限定的保護によっていつも新たな発展に向けた動機付けが行われる、 という話だったんだ。 そしてソフトウェアの分野では特許はそのように機能しない。ソフトウェアで 機能しない理由は複雑なソフトウェアはとても多くの部品で構成されている から、100万個もの異なる部品のどれか一つがいくつかの完璧に下らない特許に 基づいているかどうかなんて誰にも分からないからなんだ。 だから誰もがただ頭を砂の中に埋めて、この問題を基本的に無視している。 そして営利企業は自分達の特許を防衛用武器として集めようとしていて、 必ずしも攻撃的に使いたいわけじゃなく、他の誰かがきてドアを ノックしたときにこう言うためだ。「よう、でもオレはこの特許を持ってる。 一方であんたの商売がその特許で問題を抱えてることも理解してる。だから 友達になろうじゃないか。で、特許の話を持ち出すのはやめにしよう」 Jim Zemlin: では私達は冷戦のような状況を作り出してしまった ということですか? Linus Torvalds: 半分は当たり。現在の大きな問題はこうした特許ゴロ自体 であるという事実に基づいていないね。冷戦状態は全く機能しないよ、 なぜなら彼らはコードも製品も全く持っていなければ、何も販売していない からね。 Jim Zemlin: ならず者国家ですか? Linus Torvalds: だから、彼らは……そう、彼らはテロリストのようなもので、 こちらは爆撃で反撃することができないんだ。なぜなら、爆撃するものが何も ないからだ。こうした失うものが何もない個人が冷戦モデル全体を壊していて、 その理由の一つは大企業でさえ今ようやく特許やソフトウェアが本当にひどい アイデアだってことに気づき始めているからのようなんだ。 Jim Zemlin: 特許は多くのリソースを使って可能な限り多くの特許を とってくる大組織と非常に相性が良く、コミュニティあるいは オープンソース開発業界は単純にそうしたリソースを持っていないから、 そういう意味で特許システム全体がこの実業界にやや有利なように作られて いる、という議論もまたなされています。 Linus Torvalds: そうだね、もし特許を冷戦のようなものとして見るなら、 会社が大規模で、多くの特許を取得しているのが明らかに助けとなる点で、 確かに実業界に有利に働くと僕は思ってるんだ。なぜなら大企業は大量の核を 保有していることに相当し、小企業と個人は核を持つことができないからだ。 特許は現実的にはあまり利用しやすくないね。 だからこのモデルは大企業に有利なんだ。一方では、繰り返すけど、 ならずもの国家の問題が現れる。大企業は、ある面では、特許による 脅しに対してより脆弱なんだ。特許ゴロにからまれたら、ゴロは普通大金の 匂いのする方に向かっていくから、連中は実際には大企業をつけ狙う。 だから今や多くの特許を取得するしていることが助けにならないんだ。 Jim Zemlin: この例え話をあまり広げすぎないようにしますが、 このオープンソースコミュニティや多くのオープンソースプロジェクトは この冷戦において、ロシアとアメリカが協調したようにより明白な態度を 示すのでしょうか? あなたは Linux の側に充分な同盟がある、例えば この特許問題は非常に強力な同盟のおかげで実際に問題にならないと 感じていますか? Linus Torvalds: それほど充分な同盟を組む必要はあまりないと 僕は思ってる。一方で、最近の Novell と Red Hat に対する特許訴訟を 見ると、それはならずもの国家の一つによるものだ。だから、おそらく実際に 特許を使う他の大企業に関する限り、十分な同盟関係があるから特許はそれほど 大きな問題にならないと思うんだ。 しかし特許ゴロ問題は結局オープンソースの側からも見えてくるんだ。 もちろん大体の場合、特に比較的小さいオープンソース企業では、 特許ゴロもつけ狙うことはないと思う。 Jim Zemlin: でもこれはソフトウェアにおいては何も新しいことは ないですよね? 長年特許ゴロは存在していて、彼らは私有ソフトウェア企業に 対し数十年に渡って行動を起こしてきました。 Linus Torvalds: そう。これはオープンソースと何も関係がないよ。 いや、ていうか、これは単に一般的なソフトウェア特許の問題だよ。 僕は特許に付随する他の問題はオープンソースと全く関係がないと 思ってるんだ。オープンソースの人々は多分単にそうしたことを営利企業より 強く意識していて、営利企業の側は気づくのにもう少し時間がかかっている だけだと思うんだ。営利企業は特許ゴロが出現し始めるまで(そういったことは) 実際に心配しなかったからね。 Jim Zemlin: ではそうした観点から、 Microsoft が特許の周りで ゴチャゴチャと言っていることについてどのように考えていますか? 一方では特許は全く彼らを助け出すことはなく、しかしもう一方では あちらの側では特に Linux が侵害しているとか言われている特許と ある程度は関係しているなどと述べています。 Linus Torvalds: Microsoft は特許をマーケティング的なものとして 見ていると思う。おそらくそれには2つの理由があるんだ。 a) まず、昔からそういう風に使ってきたと思うからだ。 今までのところ、Microsoft が特許で誰かを訴えたことがあるとは 思わないな。彼らは他の人に特許で訴えられたことはあっても、彼らが するとは……山ほどある訴訟事件を調べたわけじゃないけど、でも彼らは通常 特許を武器として使ってきてはいないと思う。 しかし彼らはあらゆることを市場における恐怖、不確実性、疑心暗鬼として 使うことに至上の喜びを感じるんだ。そして特許は、 「こいつは便利じゃないか? この特許は PR のための武器として使える」 と言うための手段の一つにしか過ぎないんだよ。 Microsoft があまり真剣に特許を追いかけ回そうとしないと思う もう一つの理由は、もし有罪判決を受けた市場の独占者だったら(*)、決して 競合を特許で訴えるべきじゃない。大抵の Microsoft の弁護士はこう言うと 思うんだ、「そういったことは控えましょう。お分かりですよね? そうしたことは常識的でないように見えるのです」 (*訳注 一部のニュースサイトでは、特に市場シェアに関して Linux と Windowsを比較するときに Microsoft 社のことを "convicted monopolist" と 記述している。つまり Linus は「もしあなたが Microsoft のような会社に いたら」という意味を含んでこのように発言していると思われる。) 彼らは緊張緩和と冷戦状態みたいに持ち込むために特許を使うことに 至上の喜びを感じるんだ。 Jim Zemlin: Microsoft についてもう少し話を続けましょう。 彼らの Linuxと の相互運用性の向上に対する要求方法について話しましょう。 こうした試みについてどう思いますか? Linus Torvalds: これは判断するのがとても難しいね。 ぼくには分かんないよ。Microsoft は多くを語り、本気でそう思っていることも あるようだけど、しかし本気でそのようなことを言っている人がいるという 事実は、より大きな Microsoft の構想を何か意味しているのか? ぼくには分からない。それはいつも少し不明瞭に見えるんだ。 Microsoft の中には本当に相互運用性を向上させたいと思っている人が いると思うけど、 それよりもむしろ競合他社を中傷したいという人も いると思うんだ。 後者の人達は通常最後には成功を収める人達だと思うんだ。だから ぼくは確かに彼らを信用しなかった。でも彼らは誠意を持った人達だと 思うんだ。少なくとも彼らの一部には誠意がある。 Jim Zemlin: 多くの大企業のようですね。 Linus Torvalds: 右の手のすることを左の手は知らないからね(*)。 (*訳注 「マタイ 6:3」を参照のこと。「施しをするときは、右の手の することを左の手に知らせてはならない」(新共同訳)) Jim Zemlin: それについて語るにあたって、Open Solaris と Sun Microsystems について話しましょう。Sun のコミュニティ構築計画に ついて、彼らが Open Solaris のまわりにオープンソースコミュニティを 構築したいと述べたことに対して何か考えや与えられるアドバイスは ありますか? あなた方は明らかに非常に強固で活発なコミュニティの 一例ですが。 Linus Torvalds: 商業組織の周りにコミュニティを築いて管理しようと するのは大抵難しいよ。なぜならその商業組織の周りにいる人達はいつも 自分達が Sun のためにやっているのように感じるからね。 そしてぼくが Open Solaris に入っていくことはないよ。なぜなら、極めて 率直に言って、ぼくには興味すらないからだ。ここで完全なオープンソースに なったとみなされて何年も経つあるプロジェクトが思い浮かんだと思う。つまり OpenOffice のことだけど、これは現実には Sun は著作権の譲渡を要求し、 ライセンスを上回る排他的なコントロールを要求しているんだ。結果として 一部の開発者を実際に追い払うことになっているんだ。 Jim Zemlin: Sun がとてもよいオープンコミュニティプレイヤーであるとする 議論もあります。Java や OpenOffice が例に挙がりますし、OpenSolaris は 膨大な量の知的財産を公開しているという主張です。これについてどう 返答しますか? Linus Torvalds: ぼくが Sun に対して複雑な気持ちなのは、彼らは多くの 正しいことを行っているし、伝統的に多くのものごとを正しく行ってきたから なんだ。ずっと昔からオープンソースの精神を持っていた事実を挙げている という主張もあるし、また他に指摘すべきこととして NFS はオープンソース ではないけれどオープンスタンダードだったということが挙げられる。そして オープンであることが実際に NFS が最初の成功を収めた要因だったんだ。 それは間違いなく Sun のもので、オープン化されたものだった。だから、 色々な意味で、Sun は多くのものごとを正しく行ってきたんだ。と同時に、 彼らはよく最終段階にはトラブルでいっぱいになっているようだね。だから、 Java は彼らの現状を示す一例になるんだ。確か彼らは1年ほど前にもう一つの GPL バージョン2をリリースしたと思うんだけど、正確なことは忘れ ちゃったよ(*)。 (*訳注 おそらく Operating System Distributor License for Java (DLJ) の ことを言っているのだと思われる。) そして彼らは最終的には実行して、それは今本当のオープンソースに なっているけど、同時にそこにこぎつけるまで6年ぐらいかかったみたいだし、 その前は役に立たないライセンスを推し進めてコントロールを維持しようと していたし、いつも善意に基づくものだと主張していたんだ。彼らは、 プロジェクトは管理される必要がある、なぜなら市場の断片化は 望ましくないからだ、と主張したんだ。そしていつもプロジェクトを 管理下に置く理由を正当化していたんだ。 Jim Zemlin: しかしコミュニティが築き上げようとした大きな目標の足かせと なっていた場合もあります。 Linus Torvalds: その通り。当然ぼくは今まさに同じことが OpenOffice の ようなプロジェクトに起きていると考えているよ。繰り返すけど、著作権の 譲渡をしなければならない理由を正当化してそれが合法になるようにするんだ。 しかしそれはコミュニティを蝕んでいるんだ。なぜならそれは対等な関係の 集団の中に第一級市民を認めることを意味するからね。 Sun は結果的に他の誰も持っていない権利を手にすることになった。 たとえ Sun がその後完璧に行動し、本当に素晴らしい振る舞いをすると しても、Sun が特権を持っているという事実だけで、人々は第二級市民である ことが当然のように感じるんだ。それはコミュニティを築くやり方じゃない。 ぼくが Linux 開発で最初の頃からやってきたことの一つは、誰かがパッチを 送ってくるとき、彼らはそれらのパッチに対する全著作権を保持するように することだった。誰も、ぼくだって他の人と同様何も権利を持ってないんだ。 ぼくがほとんどの人よりも多くのコードを書いているという点を除いてはね。 でも、ぼくがほとんどの人に言いたいのは、みんなにじゃないけど、あなたが Linux 開発に参加するときの権利は、あなたが Linux に入れたものに比例する ってことだ。 Jim Zemlin: もう一つ Open Solaris や Sun のオープンソースプロジェクトに 関係することを話しましょう。知っての通り、市場には競合がいます。 IBM は自社の Linux システムを売ろうとし、HP は自社の Linux システムを 売ろうとし、Sun は自社の Solaris システムを高利潤のサーバ製品上で 売ろうとしています。 しかしオープンソースの世界にも競合がいるわけですが、それについて お話させてください。開発者のマインドシェア(*)獲得のために、 正確に言うと、他のプロジェクトよりも多くの人に参加してもらうために、 Linus、あなたは個人的に少し競争意識を持っていますか? (*訳注 マインドシェア: あるブランドが消費者の心に占めるシェアのこと。 http://japanbrand.jp/cBS/80010/1.html ) Linus Torvalds: ぼくには結構競争意識あるよ。ぼくは競争の力を心から 信じてる。それは人々のやる気を出す方法として本当に重要だと思ってる。 ぼくは間違いなくやる気が出る。ていうか、それはぼくのやる気を出すものの 一つなんだ、わかる? ぼくは一番になりたいんだ。 そして、実は、外部との競争よりも内部での競争の方が興味があるんだ。 例えば、ぼくが一番になりたいって言ったとき、ぼくは Linux を Solaris と比較するんじゃないんだ。それは外部との競争の一つだから ぼくにとっては二次的なものなんだ。ぼくには全く興味がわかないね。 ぼくが一番になりたいというのは、Linux において一番になりたい ということなんだ。もし他の誰かが来て、「おい、俺は Linus よりいい メンテナをやれるぜ」なんて言うとしたら、ぼくのやる気は際限なく上がる だろうね。そのときこそぼくはみんなに示したいんだよ、 「いいや、ぼくこそが最高のメンテナなんだ」ってね。 Jim Zemlin: それがあなたのやる気を維持していると? Linus Torvalds: 絶対にぼくのやる気を維持しているね。ぼくは平日も、 週末も、年間52週間も活動してるんだ。ぼくは、誰が最高のメンテナか っていう質問に疑問の余地を与えたくないんだよ。 それと同時に、ぼくは競争を奨励したいんだ。別に競争が敵対的である必要は ない。実際に一緒に仕事している場所にいるんだけど、確かに「よし、俺は あいつより上にいってやるぜ」といった感じになることはある。どちらも同じ 分野で活動しているにもかかわらずね。 だからぼくは実際には他のカーネルツリーで起こっていること全てを見て 楽しんでいるんだ。全てのベンダは自分のツリーを持っている。もし あるベンダがぼくの持っていないドライバを持っていたら、そのドライバを Linus に送るほどのものではないと決定した開発者には本当に頭にくる。ぼくは こんな感じだ、「なんでぼくのカーネルツリーがベンダのカーネルツリーより 悪くなるんだよ?」 数週間前にカーネル側でまさにこの通りの問題が発生したんだ。 標準カーネルで今じゃみんながほとんど当たり前に使ってるいくつかのある ドライバが入らなかった。それで、みんながそうしたドライバがぼくのツリーに 入れられるほど品質面でいいと思わなかったということが明らかになったんだ。 これには実に腹が立つよ。 Jim Zemlin: しかし、あなたは目標を高く設定したからこそ時が経てば 勝ち抜き、また、人々がドライバをメインラインに入れるのを 後押ししています。 Linus Torvalds: 一つの問題はぼく達の中には何を受け入れ何を受け入れないか ということについて非常に高い基準を持っている人がいて、新しいコードを 入れたり新しい試みをしてみたいと思う人達を萎縮させてることなんだ。 ぼく達はしきいをそんなに上げちゃいけないんだ。新しいコード、 新しいドライバ、問題があったらぼくはドライバの作者に期待するより それらを採用して改善する方がいいね。特に作者がメインツリーの外側で 活動していて、ひょっとすると同じ開発コミュニティ全体の一部である かもしれないのに部外者のように感じてる場合はね。でも彼らが部外者のように 感じるのは彼らのドライバがまだツリーに入れられていないからなんだ。 そして彼らが孤独に活動し、何の助けも受けていないのに鞭打って働かせるのは 不公平だと思う。カーネルコミュニティにはそんな風に、彼らを受け入れる前に ものごとを正しくしなければならないと考える人もいるけど、ぼくはずっと 自由放任主義者の側に近いんだ。ぼく達は悪いものを受け入れたくない、しかし 一方で、ほら、なんでも最初は完全じゃないし、動きはするが完璧じゃないもの を受け入れてぼく達みんなが改善できるときに改善しておく方がいい。ベンダが 自分達の抱えてる慢性的な問題を完璧になるまで抱え込んでいても、そんなの 助けなしに完璧になることなんて絶対にない。だからその代わりに他全ての ベンダが修正できるようにするんだ。 Jim Zemlin: Broadcom のエンジニアがこれを聴いてるといいですね。 Linus Torvalds: あー、ぼくはそう思わないな。ぼくは Broadcom に対して あまり楽観的じゃないんだ。 Jim Zemlin: 私の心には希望が永遠に湧き出ていますよ(*)。 (*訳注 アレクサンダー・ポープ「人間論」より。 "Hope springs eternal in the human breast" 「希望は人の胸に永遠に湧き出る」 http://www.gutenberg.org/files/2428/2428-h/2428-h.htm ) いくつかのより深い問題や、Linux、特にあなたの遺産という意味での Linux に 関する産長期的な未来について少し話しましょう。 今日あなたは最高の人であると同時に、今日あなたは最高の地位を競い、 ええと、時間経過と共に何かが起きて、その、Linus……。 Linus Torvalds: ぼくはいつの間にアルツハイマーになったんだ? あなたはぼくがすでに負け始めてるとでも言うのかい?(笑) 誰も心配する必要ないよ。ていうか、間違いなくぼく達はほとんど全ての オープンソースプロジェクトの中で最も広汎な開発基盤を持っているんだ。 カーネルプロジェクトがどれだけの開発者を抱えているか、実際に見ると 面白いよ。 そして僕は自分がスタートを支援した別のプロジェクトが、文化が本当に 多くの人が参加するのを後押しするという同じパターンを踏襲するように なっていることを話すのが本当にうれしいんだ。 Jim Zemlin: 私は人々がその点を懸念しているという視点であまり質問を していません。私は「あなたはどのように考えているか?」という 質問を重視しています。あなたが周りにいないとして、Linux には どのようになっていってほしいと思いますか? Linus Torvalds: ぼくは本当にそういった計画は持ってないんだ。ぼくは 2つの点で心配してはいるんだ。「心配する」っていうのは間違った言葉の 使い方かもしれない。ぼくは本気で心配してるわけじゃないんだ、けどぼくは 2つの点に注目してる。1つは細部のこと。ぼくは、悪魔は細部に宿るってことを 強く信じてるし、もし細かい部分全てについて正しくやることができたら、 残りはなんとかなるんだ。 大きな問題を心配することはない。なかなか減らない細部の問題を一つ一つ 全部解決することができさえすれば、大きな問題は勝手に解決してしまうんだ。 ぼくは多くの技術的問題に対し、一歩一歩地道に解決する方法をとるんだ。 数ヶ月かもしれないけど、5年かかるような問題は絶対ないよ。ぼくは5年かける 価値のある問題はないと思ってるし、5年かかると正しく時間を見積もることが できる人はほんの一握りしかいないんだ。 しかしもっと重要なのは、もし非常に時間がかかると予想される場合、 目先の問題でつまづくかもしれない。だから、そうした実際の技術的問題の 細部に直面するとき、ぼくは2、3週間、あるいは2、3ヶ月かかると見て おくんだ。 もう一つぼくが心配していることは、一般的な開発フローやモデルのような ものなんだ。こうしたものはぼくが長期的視点にたってみたり、「で、実際に そいつによってみんなが互いに協力する方法を変えるようになるの?」って 心配することができる。そしてぼく達がカーネルに追加した sign-off という、 開発者が提供したコードを許可することを証明するための手法(*)を始めると 少しづつ変わってきたんだ。 (*訳注 sign-off をパッチに記載することで、コードの原作者が誰であるか ということと原作者がプロジェクトにパッチを提供することを許可していること が一目瞭然となる。詳細は http://www.linux.or.jp/JF/JFdocs/kernel-docs-2.6/SubmittingPatches.html を参照のこと) この開発での方法は健全で開発速度を緩めたり流れを止めたりしない。その ことがこの一連の議論とその解決方法の一部によって確実になっていったんだ。 そしてそれはソフトウェアの問題に過ぎないし、5年もかかるだろうなんて ことは言わない。でもぼくはもしあなたが同じやり方でこの基本部分を保守 するとしても、うまくいくと思う。 繰り返すけど、短期的には細部に注意を払い、長期的には非常に幅広い開発者の 活動基盤を手に入れ、新しい人達をその活動基盤に連れてきて参加するよう に誘うことをただ確実にやるんだ。そうすればその活動基盤は未来にわたって 幅広いままでいるんだ。 そしてぼくは自分についても Andrew についても Alan についても(*)あるいは 他の誰かについてもどこかに行ってしまうのではないかなんて心配はしないと 思う。なぜなら、もし幅広い活動基盤を手に入れていれば、そこには常に誰かが いるからね。 (*訳注 Andrew or Alan: Andrew Morton と Alan Cox を指す。ともに Linux カーネルのメンテナ。) Jim Zemlin: ええ、確かに。 幅広い市場の視点から見える技術的問題について話しましょう。ここで私が 市場というのは、長期にわたる技術革新が続いてきたもの、つまり 誰がどんな種類のコンピュータを使っているか、ということを指します。 Linux デスクトップについて話しましょう。ある人々はそれが非常に重要である とし、ある人々は Microsoft がこのデスクトップ市場で独占的地位を占めて いることが不当で、Linux が本当に素晴らしくて今年や来年にもその地位を 取って代わるだろうと予言しています。 Linux デスクトップとそのより広い範囲での導入について、あなたはどう考えて いますか? Linus Torvalds: うーん、幅広く使われるかどうかわからないけど、Linux デスクトップは最初にぼくが Linux に手をつけた理由なんだ。ぼくは決して Linux デスクトップ以外に注意を払ってきたことはないんだ。 サーバ市場は参入するのにとても簡単だった。少ししか負荷がかからないし、 非常に単純でよく理解されていて、デスクトップに比べて人々はサーバを アップグレードするのに抵抗が少ないんだ。しかしぼくは決して Linux サーバ を動かすことはなかったし、そうしたいと思ったことはない。それはぼくの 興味の対象じゃないんだ。僕はデスクトップ使い以外の何者でもないんだ。 ぼくは常に Linux をワークステーションとして動かしてきたんだ。 だから、ぼくはサーバを自分とは関係ないものとして見てると思う。ぼくは 膨大な数の開発者が Linux を同じように見てると思う。なぜならそれが 教えてくれる、そう、サーバは巨大な市場かもしれないとはいえ、 実際に開発者を見てみたら、開発者がいつも付き合っている相手は自分の ワークステーション、デスクトップであって、そここそが本当に自分の ドッグフードを食べたり(*)結果的に自分の努力の結果が実る場所なんだ。 (*訳注 eat your own dog food:「自分で自分の作ったものを試す」の意。) だから、多くの開発者はデスクトップの問題に重きを置き、気持ちを 向けてると思うんだ。ぼくはデスクトップの技術的な水準においては全く 心配していない。なぜなら大半のカーネル開発者が最初に力を注ぐもの だからね。 Jim Zemlin: Linux デスクトップが普通のユーザに採用されていない理由に ついての批判があります。それは開発プロセスの特性、つまりかゆいところは 自分の技術で掻くべし、という特性により技術者はユーザビリティを機能に しないという主張です。 Linus Torvalds: ある程度は真実だと思うけど、実際には細かい話だと 思うよ。デスクトップが特別な理由は、デスクトップが本当に特別で 他の市場よりも難しいからだと思うんだ。 他の市場では大抵何をするかということについて非常にはっきりしたモデルが ある。もしサーバを持っていたら、そのサーバが行うことの優先順位が わかる。もしかしたら後日機能を拡張するかもしれない、しかしもし eメールを届けようとしているなら、サーバはその一生のうちに何をするかが 非常にはっきりしている。 同じことは組み込み領域でもほぼ真実なんだ。明らかに組み込み領域では 数千もの異なる狭い分野があるにもかかわらず、しかしそれぞれの領域では それらがどう動くかはとてもはっきりしている傾向にあるんだ。 デスクトップは特別なんだ。みんなデスクトップがどうなったらいいか 違う考えを持ってる。Windows から来るたくさんの人は、いわゆる デスクトップとは Windows のことだと思っている。そうだよね? Mac から来る人はいわゆるデスクトップとは Mac のことだと思っていて、 メニューバーは上部にあるもので、メニューバーが上部にないものは デスクトップじゃないと思っている。そうだよね? だからみんな違う考えを持ってるんだ。それにみんな違うハードウェアも 持ってる。デスクトップはあらゆるハードウェアが実際に存在する分野でも あるんだ。サーバが使うハードウェアは、ドライバの違いやそれに相当する ような点で見ると、デスクトップが使えるハードウェアの 1% なんだ。 一般的にサーバにウェブカムがついているのを見つけることはないし、 サーバ上に変り種の IDE ドライブを見つけることはないよね。 デスクトップはより一層多様化しているし、同時にデスクトップは何かが 変更されたときに本当に人々を狼狽させるものでもあるんだ。人々は以前 使っていたデスクトップなら、大抵は Windows だけど、なんであろうと すでに慣れているから、デスクトップ市場に新規参入するのは本当に 難しいんだ。だからもし Windows と違うように振るまうなら、 いくつか操作性が改善されていても、それは役に立たないんだ。 よりよいものでも Windows と異なるなら悪いとみなされるんだ。 Jim Zemlin: では、オープンソースは、開発モデルとして、そのように 与えられたデスクトップを創るのに有効なのですか? Linus Torvalds: ぼくはそう思うけど、それだけじゃなくデスクトップは 基本的に参入するのに長い時間がかかるんだ。人々が、ある程度はぼくも その中に含まれるけど、期待するよりも間違いなく長くかかるんだ。 市場ではまさにこうした巨大な慣性がかかっているんだよ。 しかし同時に、ぼくの考えでは、デスクトップの世界でオープンソースに対して 逆風となっていたことの一つは、90年代にデスクトップが本当にとても速く変化 したことだった。たくさんの新機能があったんだ。人々がデスクトップと 対話する方法は、数個のプログラムを持つことからウェブブラウジングそのもの になり、人々のデスクトップの使い方はがらっと変わったんだ。 そうしたことが起きると、多くの変更があったときに、それを制御するのは 1社の方が簡単なんだ。この場合大抵 Microsoft なんだけど、ある点では 市場を制御するのは簡単なんだ。そして人々が今 Vista で問題を抱えてる 理由の一つは、市場が成熟したときに市場を変えるようなことは1社では より一層難しくなるからだと思うんだ。 今日人々はほぼ間違いなく5年前とあまり違いのないデスクトップを 使っていると思うけど、そういう意味でデスクトップはこの4、5年にある程度 成熟し始めていると思うんだ。以前はこんなことなかった。 Jim Zemlin: では、ある意味一つの企業が提供していたデスクトップの 潮流のようなものは、今は素早い変化を必要とされているために 別の側に移っているということですね。 Linus Torvalds: うーん、それほど素早くはないよ。ぼくはどんな市場でも 素早いことはいいことだと思ってる。ぼくが思うに、デスクトップに 起こっているものは成熟で、それは始まってるんだ。関係性はますます強く なっているから、関係性が薄くなってるなどとは絶対に言わないけど、それは コモディティ化(*)以外の何者でもないんだ。だから PC ハードウェアが コモディティ市場になったように、デスクトップソフトウェアはコモディティに なるんだ。 (*訳注 commodity の本来の意味は先物取引における一次産品を指すが、 ここではある商品が必需品かつ差異化が困難な商品となること、すなわち コモディティ化することを意識している) みんなデスクトップを当たり前のように思ってる。デスクトップは 一つのことしかしないと思われていて、他に何もさせることはできないんだ。 本当にね。そのコモディティ上にニッチなアプリケーションを持っていると しても、デスクトップそれ自身は人々が新機能に興味を示す必要の ないものだし、そのことが実際にはオープンソースの助けになると思うんだ。 なぜなら今は目標を変えようとするような企業を抱えることはできないからね。 というのは、もし目標を変えようとし続けると、その企業の株主をいらいら させるだけだからだ。 Jim Zemlin: そのことについての話をより広範に続けましょう。 オープンソースがデスクトップコンピューティング上にあるとしても 他の領域にあるとしても、オープンソースに対する批判がずっとあります。 すなわち、「いいかい、オープンソースは模倣としては本当に優秀だけど、 自分からは何もしやしないよ」このような批判に対してどう答えますか? Linus Torvalds: ある程度は本当だと思うよ。開発モデル全体が通常 多くの異なる人々が行きたい方向に引っ張ろうとするのを伴うのは 当然のことだし、結果として突然一つの方向に向かってしまうことはないんだ。 みんな自分の行きたい方向に引っ張ろうとしているし、しかもその方向は 動いているから、一つの大きな方向に向かって量子跳躍するんじゃなくて、 異なる企業、異なる個人のニーズや関心の釣り合いをとろうとする 中庸的な方法をとるんだ。 そしてそのようなものは一部の人がイノベーションと呼びたがるようなものを あまり伝えないんだ。 Jim Zemlin: しかし同時にあなたが従事しているものはかなり科学に近い ようですが……。 Linus Torvalds: うん。そしてそれこそぼくがしたいことで、イノベーションは 言葉として使われ過ぎてるし、人々はそれを何か素晴らしいものだと思ってる ように見えるんだ。現実はトーマス・エディソンが「99% の努力と 1% の イノベーションである(*)」と言った通りだったんだ。 (*訳注 よく知られるエディソンの名言は innovation ではなく inspiration「ひらめき」である) イノベーションはそこまで重要ではないし、そうあるべきじゃないんだ。 なぜなら結局したいことは自分がその仕事を成し遂げたいということであって、 その 99% はイノベーションに関係するものじゃないんだ。 Jim Zemlin: ええ。いくつかの点で、人々が電源管理のイノベーションを 欲する領域を見ると、環境保護目的にせよ単なる経済的節約の目的にせよ、 これは私たちがぐずぐずしているような領域で、オープンソースが 多大な成功を収めることがありえる領域です。 Linus Torvalds: 人々はオープンソースに期待……うーん、多分期待じゃないかも しれないけど、オープンソースと Linux は一般的に非常に速い開発の代名詞に なってしまって、でも実際にはそれは真実じゃないんだ。開発が速いという より、広範に、まんべんなく開発するということなんだ。 間違いなく開発はまんべんなく行われている。数千もの企業が参加していて そのそれぞれの企業が自分達の計画を推し進めようとするためにたくさんの 開発が同時に進められているからね。そういう意味では速いけど、でも ある一つの最前線においては、必ずしも速いわけじゃないんだ。 思うに、オープンソースモデルはより一層科学に似てきていて、より一層…… それは一歩一歩積み上げていくものなんだ。そしてそういう漸進的なモデルの 方がイノベーションよりずっとよいものであることがわかっている。なぜなら イノベーションは地図中を飛び回るようなもので、たまに金塊を掘り当てても それが何であるかはわからないんだ。 しかしもし何かに追加するやり方で改善しさえすれば、いつかは目的地に 到達することができるんだ。一つの相似として……ぼくは科学を挙げるのが好き なんだけど、しかしもう一つの相似は40年前の自動車産業であり、 イノベーティブでない日本企業がコツコツと進めていた方法で、彼らが 米国の自動車産業の中にいる本当のイノベーターによって見下されていた 方法なんだ。 じゃあ、実際のところ誰が最終的に自動車産業を変えたんだ? Jim Zemlin: 時間をかけて改善を積み重ねていったことが、本当の イノベーションだったんですね。 Linus Torvalds: そうそう、そういうこと。 Jim Zemlin: 未来についての話をまとめましょう。あなたは Linux を どう見ていますか? あなたがこのことについてあまり先々のことまで考えない のは知っていますが、しかし私はあなたに今から5年先のことを話すことを 促してみようと思います。 世界は Windows の世界か、それとも Linux の世界になるのでしょうか? 何でもブラウザでできてしまうからオペレーティングシステムは重要では なくなるのでしょうか? あらゆることはモバイル機器で行うのでしょうか? モバイルタブレットから出てくる新しい形の要素があるのでしょうか? あなたはどうなると見ていますか? Linus Torvalds: 実際、細かく見れば技術は大きく進歩していると思う。 でも大きな視点で見ると、そんなに素早く変化してないよ。ぼく達は 空飛ぶ車を運転してないし、5年後も依然として空飛ぶ車を運転していない だろうし、デスクトップ市場も一般的な OS 市場もそんなに変化することは ないと思う。 かなり性能の上がっているハードウェアを持つようになるとは思うけど、 ものごとはだいたい同じ速度だと思うんだ。なぜならソフトウェアは成長する だろうし、多分よりけばけばしいデザインになってハードウェアの速度を 低下させるだろうし、ハードウェアは幸運にもかなり持ち運びやすく なるだろうけど、それこそ性能がそれほど上がらない原因だと思うんだ。 なぜならそんなに大きいバッテリーパックは持てないからね。 でも OS 市場はそんなに変わらないと思う。 Jim Zemlin: 仮想化は時代の流れを変える存在でしょうか? あまり大した存在じゃない? Linus Torvalds: あまり大した存在じゃないね。 Jim Zemlin: なぜそう思うのです? Linus Torvalds: 50年ぐらい前からあるからね。IBM がいつ自分のとこの大きな ハードウェアで仮想化を始めたのか忘れちゃった、もしかしたら50年じゃない かもしれないけど、数十年もやってるしそれはニッチな市場ではすごく興味深い ことだけど、仮想化が時代を根本的に変えてくれると期待している人達は単に 自分にそう言い聞かせているだけだと思う。 ぼくが言いたいのは、本当の変化とは新しい使い方から来るってことなんだ。 コンピュータの全く新しい使い方は多分出てくると思う。なぜなら コンピュータは押し下げられて安くなり、いずれはオペレーティング システムの全体像を変えていくからなんだ。 それだけじゃなく、新しい形の要素が新しい入出力デバイスにあると期待して いるんだ。実際に携帯電話にプロジェクタがつくようになったら、そのことが 人々がハードウェアについて考え始める方法を変えるだろうし、一方で、 ぼく達が交流する方法やオペレーティングシステムを使う方法を変えると 思うんだ。しかし仮想化ではそれはできない。 Jim Zemlin: 誰もが、何もかもを Linux と呼びます。Linux とは何ですか? これは人々が Linux デスクトップや Linux サーバをどう定義しているかという 点での標準に関係があると思いますが、しかし、ご存知の通り、本当のところは あなたが Linux の商標を所有していて、その言葉の幅広い使用を許可して います。多くの人々が多くの異なるものを Linux と呼ぶことができます。 Linus Torvalds: Linux は単なるカーネルだとか、Linux はあれだこれだと 区分けするようにしようとするのは間違ってると思う。 カーネルはその上であらゆるプログラムが動作することなしには役に 立たないよ。カーネルの上で動いているプログラムは Linux か? 違う。 OpenOffice は Linux の上で動いていなくたって依然として OpenOffice なんだ。だからといって、一部だけを取り出すべきでもない。Linux 全体の うち大部分はカーネルの周りに広がった全ての開発プロジェクト、全ての プログラムなんだ。だから、カーネルだけに限定するのも間違ってるんだ。 Jim Zemlin: しかし人々は Linux について考えるときこう考えます、 「私は Windows を使ってる、私は Mac を使ってる、私は Linux を使ってる」 これはカーネルとその周りのもの全部を指しています。 Linus Torvalds: そう、その周りのもの全部だね。 Jim Zemlin: しかしその点でさえ、人々は Linux を異なる方法で定義できます ので異なる Linux のバージョンには互換性がなく、それで人々が「うーん、 私は Linux を使ってたけどこの Linux アプリケーションは私の Linux 上では 動作しなくてそっちの Linux では動作するんだ」という問題が出始めます。 そうしたものによって混乱する世界になっていきます。 この点についてどう考えていますか? これは良いことなのですか? 悪いことなのですか? Linus Torvalds: 別にいいとも悪いとも思ってないよ。ぼくはそれは現実である と思ってる。現実とは混乱しているものだし、もしぼく達が Linux のような 言葉を違った文脈の上で使えばそれは異なるものを意味するんだ。 プログラマーならカーネルという意味でしか捉えない傾向がある。なぜなら Linux を一つのプログラムとして、実際にコードベースとして見たとき、それは カーネルのことなんだ。 しかし Linux を Windows と比べる人にとって、それは基盤全体であり、 それは Linux に賛同する全ての企業群であり、ひょっとすると哲学であり、 その他全てのものであるかもしれないんだ。 Jim Zemlin: 多くの人々はそうした面からそのように考えています。Windows に 対抗するにあたり、特定のバージョンの Linux だけを対象にするのではなく、 人々に一致団結して Linux に取り組んでもらうために、 Linux におけるサーバ やデスクトップの合理的な共通定義がある方がいいのでしょうか? Linus Torvalds: ぼく達は不必要に市場を細分化しないことをはっきりさせる 必要があると思うんだ。一方で、全てのベンダは明らかにいつも自分の アイデンティティを欲しがっていて、彼らは決して全く同じものを売ろうと しないから、2つの異なるバージョンの Linux は依然として Linux と 呼ばれるけど、それらは同一じゃないんだ。 つまり、バランスなんだ。わかる? 今のぼく達は、そう、実際10年前よりは マシだと思うんだ。みんなは KDE 対 GNOME デスクトップについて、それらが 同じデスクトップ上で動作しているときでも、2つのプログラムの見え方の違い について論じるんだ。もしあなたが KDE ウィジェットを使っていて、別の人が GNOME のそれを使っていたらそれらは同じに見えないけど、10年前ぼく達は SysV init 対 BSD init で丸々同じ経験をしていて、システム全体のうち ほとんどのものと簡単に組み合わせることができたんだ。なぜならそれは非常に 重要なもので、ある環境で他の環境と全く異なる場所に置くことを要求する プログラムが一つもなかったからだ。 だからぼく達の共通基盤は以前に比べ既にずっと進歩していて、将来は いつも違うものが……違うバージョンって意味だけど、存在するように なるんだ。 Jim Zemlin: その挑戦とはバランスを見つけることなのですね。 Linus Torvalds: そう。ぼく達みんなが幸せになる場所はないと思う。 でも、間違いなく色んな人達が色んな優先度を備えていると思うんだ。 Jim Zemlin: 最後に、Linux の最前線で活動に参加したいと思っている 組織や個人に対し何かアドバイスはありますか? Linus Torvalds: 「何から始めたらいい?」という質問をしょっちゅう 受けるけど、ぼくのアドバイスはそんな質問するなってことだけだね。むしろ 自分が挑戦したいと思うことがわかりきっているぐらいある特定の分野に興味を 持っているのでないなら、挑戦しちゃだめだ。そいつはさっさとあきらめて、 もし「ぼくの方がうまくやれる」と言えるものに出会い、口だけのやつから 実行するやつになる気が起きたとき、自分自身で答えが見つかるよ。 THE END